医大生Kのブログ

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イギリス実習日誌④~英国で考える医師の働き方~

 

ーー医師の時間外勤務、医師不足の地域は月平均160時間

 

医師の働き方改革をめぐる時間外労働の上限規制について厚労省がこの方針で調整を進めている旨が報告されました。

 

医師不足地域は例外として大幅緩和する代わりに次の勤務までインターバルなどの措置をとることを義務付けるみたいです。

 

ちなみに過労死ラインは月100時間以上、2か月だと月80時間なのでその倍に当たります。

 

英国での実習の中で感じた印象から今日はこの医師の働き方の問題に関して少しぼやきたいと思います。(笑)

 

 

ーーイギリスではどうなのか

 

いま僕が実習しているイギリスのEastborneという街は東サセックスという医療圏に属しており、531,200人に医療を提供し、精神科では115床の急性期と40床の長期リハ、20床の軽度犯罪精神の病床を所有しています。

 

とてものどかな港街で、日本でいう地域医療が当てはまるようなところだと思います。

 

日本の医療の常識で考えるとさも忙しいかのように思いますが、実はほぼみんなピタッと9時から17時勤務です。(研修医はもう少し長くいてる、かつその後バイトにいく医師もいる)

 

その後は夜勤の人に引き継がれるという形です。

 

実は去年Imperial College London関連の病院の小児外科で2週間実習した経験もありますが、その時も医師は8時から17時勤務で、その後は10時までの準夜勤、朝9時までの夜勤チームに引き継がれていました。

 

そうです、イギリスの医師のQOLはかなり高い!!!!!!

 

「主治医制ではなく、診療科全体で患者を診る」

 

その分、ハンドオーバーなどの簡便なプレゼン業務は増えますが、かなりのQOLを得る事ができるのではないでしょうか。

 

しかしこのシステムはNHSによって地域ごとの病院数がコントロールされており、一つの施設にリソースが集中しているからこそ成り立っていると感じました。

 

例えばImperial College London関連病院には小児外科医は20人ほどいましたが、日本の僕の所属する大学病院には小児外科医が4人(教授も含めて)しかいません。

 

リソースのない地方の病院でこのシステムはまだまだ導入ができないのが現実だと思います。

 

 

――実はイギリスにも劣悪な労働環境だった時代があった、変遷はどこか

 

ですが、イギリスの医療の歴史を見てみると実はイギリスにも医師の仕事が過酷だった時代がありました。「昔はもっとひどかった」と英国でお話を伺った先生方は仰っていました。

 

では、ここまで劇的に現状が変化した要因は何か、、、、

 

さかのぼると、1993年にEUで施行された欧州労働時間指令が施行、2000年に改正され、週の労働時間を48時間以内にすることが職種に関係なく施行されました。

 

英国では自国の法律よりEU法の方が上位にくるため、この改正に沿って医師の働き方も大きく変わり、医療のパラダイムシフトをうんでいます。

 

このパラダイムシフトを可能にしたポイントは個人的には以下の4つが、特に①が効いているのかな?と考えています。

 

①病院基盤からプライマリケア基盤の保健医療システム

・保険システムの総合的なパフォーマンス向上(コストだけでなく総合的な面で)

 

②病院から地域連携へ

プライマリケア医が医療のゲートオープナーとなる

・医療の90%はプライマリケアで完結するというNICEの研究結果がある

・Community-based Medicineのシステム

 

③治療から予防へ

・定額給付のGPに出来高払いを付加し、予防を進めるインセンティブを与えている

 

④医師単独からチーム医療へ

・Nurse Practitoner(制限はあるが処方権もある)、Physician Associate(診察や検査ができる)、Doctor Assistant(カルテを記入できる)、などのコメディカルが存在し、医師にしかできない業務に集中して取り組める

 

以上がざっくりイギリスに来て抱いた印象と調べた内容です。

 

 

ーー英国から学ぶ事と日本のこれから

 

イギリスの医療に対する批判でよくあるのが、「アクセスの悪さ」です。

GP診療所に行けば医療費は無料ですが、かなり待たされるから自由診療の開業医に行くという人も多いと聞きます。

 

ただGPの平均待ち時間も近年どんどん短縮傾向で、最近では3週間ほどです。

日々の外来でも急性期枠があって急な疾患には迅速に対応できるシステムが組まれています。

 

なかなか医療のシステムが変わらない日本にいると、英国のシステムがここまでドラスティックに変わっている事を知って驚きでした。

しかもその中でなんやかんやゆっくりながらもシステムの大きなPDCAサイクルが回っている事もすごいなと感じます。

イギリスの医療システムは「どういった社会で暮らしたいか」という国民の理念を体現化しているように感じました。

 

もちろんイギリスの医療は完璧ではありません。様々な問題も指摘されています。

でも、これがイギリスの選択です。

 

日本は税制、文化的・社会的背景などイギリスとバックグラウンドがかなり異なるので英国と同じ真似をしてもうまくいくとは限りません。

 

英国の事例を参考に、「我々はどんな社会で暮らしたいのか」をもう一度考える事が重要かもしれません。

 

みなさんにとって理想の医療とは何でしょうか?

 

読んで頂きありがとうございます🙇‍♂️